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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)4139号 判決 1985年12月11日

原告

山田丈裕

被告

小熊幸雄

主文

一  被告は、原告に対し六七万七、六七三円及びこれに対する昭和五七年五月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し一三四万四、三九〇円及びこれに対する昭和五七年五月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五七年五月二六日午後一時すぎころ、東京都北区東十条三丁目二番から同区東十条二丁目二番に通ずる公道上の横断歩道を通行していたところ、左側から進行してきた被告運転の自動車(以下「加害車両」という。)に衝突され、左脛骨々折等の傷害を負つた。

2  被告は、本件事故当時加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故によつて生じた原告の後記損害を賠償すべき責任がある。

3  原告は、右受傷のため、次のとおり北病院等に入、通院して治療を受けた。

(一) 入院期間

(1) 北病院

昭和五七年五月二六日から同年六月一九日まで

(2) 東京医科歯科大学医学部附属病院

昭和五七年五月二九日から同年五月三一日まで

(二) 通院期間

(1) 北病院

昭和五七年六月二三日から同年八月三〇日まで

(内治療実日数九日)

(2) 北病院附属診療所

昭和五七年六月三〇日から同年八月二日まで

(内治療実日数一九日)

(3) 東京医科歯科大学医学部附属病院

昭和五七年六月一日から昭和五九年七月五日まで

(内治療実日数八日)

(4) 坂戸整形外科胃腸科

昭和五七年七月二九日から同年九月一四日まで

(内治療実日数三日)

4  原告の損害

(一) 入院中の雑費 二万五、〇〇〇円

(二) 入院中の看護費 九万二、五〇〇円

(三) 通院付添費 七万八、〇〇〇円

(四) 診断書、文書料 二万八、八九〇円

(五) 入、通院による慰藉料 一〇〇万円

(六) 弁護士費用 一二万円

5  よつて、原告は、被告に対し、右損害合計一三四万四、三九〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五七年五月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、衝突地点が横断歩道上である点を除くその余の事実は認める。

2  請求原因2は争う。

3  請求原因3の事実中、(一)の入院期間及び(二)の(2)の通院期間については認めるが、その余は争う。

4  請求原因4の損害はいずれも争う。

5  請求原因5の主張は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

原告は、横断歩道直近の横断禁止場所(横断禁止の標識があり歩道と車道との境にガードレールがある。)を被告の対向車両通過直後、交通の安全を確認しないで、右から左に横断しようとして加害車両の進路に飛び出したことにより加害車両の前部に衝突したものであるから、五〇パーセントの過失相殺をすべきである。

2  弁済

被告は、原告に対し治療費、雑費として合計五八万二、〇九〇円を支払つた。

四  抗弁に対する認否

原告は、被告から治療費、交通費について一部支払を受けたが、その金額は不明である。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  原告主張の日時、場所において、原告主張の如き本件交通事故が発生したこと(但し、衝突地点が横断歩道上であることを除く。)は、当事者間に争いがない。

二  成立に争いない乙第三四、第三五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二号証の各記載と被告本人尋問の結果を総合すると、被告は、本件事故当時加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものと認められ、右認定に反する証拠はないから、被告は、自賠法三条により本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

三  原告は、受傷のため、その主張のとおり北病院及び東京医科歯科大学医学部附属病院に入院し、また、北病院附属診療所に通院して治療を受けたことは当事者間に争いなく、いずれも成立に争いない乙第三号証、同第一八号証、同第二六号証の各記載に原告法定代理人山田和子尋問の結果を総合すれば、原告は、その主張どおり北病院、東京医科歯科大学附属病院及び坂戸整形外科胃腸科に通院して診断、治療を受けたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

四  そこで、原告の損害について判断する。

1  入院中の雑費 二万円

原告は、北病院等に合計二五日間入院したことは前記のとおりであるところ、その間諸雑費を支出したものと推認されるが、その損害としては、諸般の事情を考慮し一日八〇〇円が相当であるから、合計二万円の損害を被つたものと認められる。

2  入院中の看護費 七万五、〇〇〇円

原告法定代理人山田和子尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、本件事故当時原告は小学生であつたため、二五日間の入院中原告の母親らが付添つたことが認められるが、近親者の付添看護費としては一日当り三、〇〇〇円が相当であるから、合計七万五、〇〇〇円の損害を被つたものというべきである。

3  通院付添費 五万八、五〇〇円

原告は、前記のとおり北病院等に合計三九回通院したが、弁論の全趣旨によれば、原告が小学生であつたため近親者が付添つたことが認められるところ、その付添費としては一日当り一、五〇〇円が相当であるから、合計五万八、五〇〇円の損害を被つたものと認められる。

4  診断書、文書料 二万八、八九〇円

いずれも成立に争いない甲第二ないし第八号証の記載によれば、原告は、診断書、診療報酬明細書等の交付を受けるため二万八、八九〇円を支出したことが認められ、右支出は、本件事故と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

5  慰藉料 七〇万円

原告の受傷の内容と治療経過その他諸般の事情を総合勘案すると、原告の慰藉料としては七〇万円をもつて相当と認める。

6  過失相殺

いずれも成立に争いない乙第二八ないし三八号証、同第四四号証の各記載に原告法定代理人山田和子及び被告本人の各尋問の結果を総合し、本件口頭弁論の全趣旨に徴すれば、被告は、加害車両を運転し、東京都北区東十条三丁目二番二号先道路を赤羽方面から王子方面に向け時速約三五キロメートルで進行中、進路の左前方約一一メートル地点の横断歩道の左側歩道上に佇立している数人の学童の動静に気をとられ、前方及び右方を注視しないで進行を継続したため、折から右横断歩道付近を右側から左側にかけ足で斜めに横断中の原告を前方約三メートルに接近してはじめて発見し、急制動の措置をとつたが間に合わず、加害車両の前部を原告に接触させ、原告を転倒負傷させたこと、他方原告は、左右の安全を十分確認しないで横断歩道付近をかけ足で斜めに横断したため本件事故にあつたことが認められ、右認定に反する乙第四四号証の記載及び被告本人の供述部分は措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。なお、被告は、原告が横断禁止の標識があり、しかも歩道と車道の境にガードレールのある個所を横断したものである旨主張するが、被告の右主張を認めるに足りる確かな証拠はない。

右認定の事実によれば、被告には進路前方及び右側の安全確認を怠つた過失があることが明らかであるが、原告にも左右の安全を十分確認しないで横断歩道付近をかけ足で斜めに横断した過失があり、これも本件事故の一因をなしていると認められるから、右原・被告の過失の内容、道路状況、原告が小学生であつたこと等諸般の事情を斟酌し、本件では前記の損害につき三〇パーセントの過失相殺をするのが相当と判断する。

してみると、原告の右1ないし5の損害の合計八八万二、三九〇円から三割を控除すると、原告の損害額は六一万七、六七三円となる。

7  損害の填補

成立に争いない乙第四号証、同第一二号証、同第一四号証の各記載によれば、被告側が原告の治療費として北病院等に対し五一万八、〇八〇円を支払つていることが認められるが、成立に争いない乙第二〇ないし二五号証によれば、原告自身も治療費として相当額を支出していることが認められるし、原告が本訴において治療費を請求していないことや原告の過失の程度が前記のとおりであること等諸般の事情を考慮すれば、被告側の支出した右治療費を本訴請求の損害額から控除するのは相当ではなく、他に被告主張の弁済の事実を認めるに足りる証拠はない。

8  弁護士費用 六万円

本件事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用としては六万円をもつて相当と認める。

五  以上の次第であるから、原告の被告に対する本訴請求は、被告に対し六七万七、六七三円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五七年五月二六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容するが、その余は理由がないからこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、第九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

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